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千葉地方裁判所 昭和38年(ヲ)425号 決定 1964年3月26日

申立人 松丸好子 外三名

相手方 田代繁 外一名

主文

千葉地方裁判所執行吏は、申立人らと相手方ら間の市川簡易裁判所昭和三八年(サ)第一二号収去費用額確定決定正本に基づき、市川市高石神町一〇一番の一の宅地上に存在する家屋番号同町二九番の建物のうち、木造瓦葺二階建店舖兼居宅建坪二四坪二階七坪を収去した材料一切を更に競売せよ。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

本件申立の趣旨は主文第一項同旨の裁判を求めるにあり、その理由とするところは、つぎのとおりである。

一、申立人らと相手方ら間の市川簡易裁判所昭和三五年(ユ)第七二号家屋買取請求調停事件につき、昭和三六年一月一二日相手方らは申立人らに対し、同年一月三一日までに相手方ら所有の左記(二)記載の建物を収去して申立人ら所有の同(一)記載の土地を明け渡す旨の調停が成立した。

(一)  市川市高石神町一〇一番の一

一、宅地 一五九坪五合

のうち、後記(二)記載の建物の敷地部分三五坪

(二) 同所同番所在家屋番号同町二九番

一、木造瓦葺二階建店舗兼居宅 建坪二四坪

二階 七坪

附属建物

一、木造瓦葺平屋物置 建坪六坪三合

一、木造亜鉛葺平家物置建坪二坪二合五勺

一、木造亜鉛葺平家物置建坪二坪五合

二、しかるに、相手方らは右期限までに右建物を収去してその敷地部分を明け渡さなかつたので、申立人らは前記調停調書正本に基づいて建物収去命令を得たうえ、右土地部分明渡の強制執行を千葉地方裁判所執行吏大島三男に委任した。同執行吏は、昭和三六年五月二二日前記建物のうち木造瓦葺二階建店舗兼居宅建坪二四坪二階七坪の部分のみを収去したが、相手方らは右執行に立ち合わなかつたので、同執行吏はその収去材料を収去現場に重ね置いたうえ、申立人ら代理人山本金一郎にこれを保管させ、右敷地部分は同執行吏がこれを保管した。なお、その余の建物部分は田中清春が占有していたので執行不能となつた。

三、その後、千葉地方裁判所執行吏渋谷誠一は相手方らに対し、右収去材料を引き取るよう催告したか、相手方らはこれを引き取らなかつたので、申立人らは同執行吏に対し民事訴訟法第七三一条第五項に規定する処分を申し立てたが同執行吏から他の債務名義に基づく競売手続を求められたいとの要望があつたので、申立人らは市川簡易裁判所に前記建物部分の収去費用額確定決定の申請をなし、同裁判所昭和三八年(サ)第一二号事件として、同年三月二〇日金一五、二〇〇円の収去費用額確定決定がなされた。

そこで、申立人らは右決定正本に基づき同執行吏に対し前記収去材料の競売を求めるべく執行委任をなした。

四、そして、同執行吏代理小弓場政夫が同年五月九日右収去現場に臨み、前記収去材料の競売をなしたところ、右土地一五九坪全部につき賃借権を有すると称する田中清春の意を受けた、いわゆる「道具屋」である長島直行が、右土地明渡の執行を妨害しようとして、通常金五、〇〇〇円にも達しない右収去材料を、申立人らと競り合つて遂に金四三、〇〇〇円で競落し、右代金を完済した。ところが、右長島は申立人らの予想に違わず、右収去材料をその収去現場から引き取らず今日に至つている。

申立人らは右執行吏に対し、長島が同収去材料を引き取らないことを理由に、これを再競売に付するよう申し出たが、同執行吏は同申出に応じないので、本件申立に及んだ。

よつて判断するに、千葉地方裁判所執行吏渋谷誠一の上申書ならびに昭和三六年第三号・同第四号建物収去土地明渡執行事件記録および昭和三八年第一三七号・同第一三八号差押事件記録によれば、申立人ら主張の経緯で、その主張にかかる前記建物のうち木造瓦葺二階建店舖兼居宅二四坪二階七坪の部分の収去がなされ、その収去材料は収去現場に重ね置かれたうえ、千葉地方裁判所執行吏の保管に付されたこと、執行吏渋谷誠一は相手方らに対し、右収去材料を引き取るよう催告したが、同人らはこれを引き取らなかつたので、申立人らは同執行吏の示唆もあつて民事訴訟法第七三一条第五項に規定する処分に代えて市川簡易裁判所に対し前記建物部分の収去費用額確定の申請をなし、同裁判所昭和三八年(サ)第一二号事件として、全一五、二〇〇円の収去費用額確定決定を得たうえ、同決定正本に基づき右執行吏に対し前記収去材料競売の執行委任をなし、同委任に基づき昭和三八年五月九日右収去現場において同収去材料の競売がなされた結果、長島直行がこれを金四三、〇〇〇円で競落し、右代金を完済したが、同人は右執行吏の再三にわたる収去材料をその収去現場から他へ搬出されたいとの催告にも応ぜず、収去現場を含む前記土地一五九坪全部につき賃借権を有すると称する田中清春に右収去材料を売却したとして、現在に至るもこれをその収去現場から他へ搬出せずに放置していること、そこで申立人らは前記執行吏に対し、長島が同収去材料を引き取らないことを理由に、これを再競売に付するよう申し出たが、同執行吏において今なお再競売に付していないことが認められる。

右認定事実からすれば、右収去費用額確定決定正本に基づく収去材料の競売手続は、前記市川簡易裁判所昭和三五年(ユ)第七二号家屋買取請求調停事件の調停調書正本に基づく建物収去土地明渡の強制執行から派生した附随的な手続というべきであつて、同競売手続には民事訴訟法第七三一条第五項を類推することができると解するを相当とする。ところで、右規定による不動産明渡の強制執行に際して執行吏がその保管にかかる動産についてなす競売は、不動産引渡執行の障害となる動産をその不動産から現実に除去するためのものであるから、当該動産の競落人は単に競落代金を競売手続終了までに支払うだけでは足らず、当該動産をそれが存する不動産から現実に搬出除去して右不動産を明け渡すか、または不動産につき権利を有する者との間に場所の使用につき合意を成立させなければならず、右措置のいずれもが採られていないときは、執行吏は当該動産を更に競売に付すべきであつて(民事訴訟法第五七七条第三項参照。)、当該動産の競落人がその動産を第三者に譲渡した後においても、同様に解すべきである。なんとなれば、当該動産をそれが存する不動産から現実に搬出して右不動産を明け渡すべき義務は、民事訴訟法が当該動産の競落人に課した執行法上の義務であるからである。

そこで本件についてみるに、前記収去材料の競落人である長島直行はこれをその収去現場から現実に搬出除去することなく、今なおその場に放置していることは前記認定のとおりであり、同人が収去現場である前記土地の使用につきその所有者である申立人らの承諾を得ていないことは申立人らの主張自体から明らかで、しかも、本件記録によれば、長島が右収去材料を売り渡したとする田中清春は、申立人らを被告として、前記土地一五九坪のうち収去現場を含む土地部分九一・二三五坪につき自己が賃借権を有することの確認を求める訴(当裁判所昭和二九年(ワ)第一九四号借地権確認請求事件)を提起していたが、昭和三九年一月三〇日当裁判所において田中清春の右請求は棄却されたことが認められるから、右長島は前記収去現場につき権利を有する者との場所の使用につき合意を成立させていないものというべきである。かかる場合には、前記説示のとおり執行吏は民事訴訟法第七三一条第五項を類推して右収去材料を更に競売に付すべく、申立人らの申出があるにかかわらず、同収去材料を更に競売に付することをしない前記執行吏渋谷誠一の行為は、委任に従い執行行為を実施することを拒みたるときに該当するものである。

よつて、申立人らの本件申立は理由があるからこれを認容し、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を各適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 辻忠雄)

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